【蒼穹のセイレーン】

プロローグ


さぁ、見つめようか。あの高すぎる空を。
人はいつもそうやってその蒼さに挑み、または、憧れてきた。
そうじゃない人もたまにはいるけど。

It's Showdown!

愛そうじゃないか。酷く孤独で几帳面な神様を。
彼の持つ呪力で嵌められた足枷を外してもらうんだ。

In The Bule Sky!

祈るんだ。自分の翼がいつまでも折れないように。
賽銭は鉛弾をブチ込んでやるさ。
クソったれな神様に最上級の愛をこめて。

<一九一四年>

僕は走っていた。オーストリアの大地を。
風の精霊が黄金色の畑に黄金色の波を浮き立たせ、泳いでいく。
それが心地良い風となって僕のすぐ側を通りすぎていった。
畑が切れると地面は黄金色から純粋なまでのグリーンへと変化し、牧草達が僕の足を優しく撫でていく。
でも、そんな事は僕の視界には入らなかった。
僕の目に映っているのは一辺の曇りも無い、高く蒼い空だけだった。
いや、違う。
その空にまるで神話に出てくるワルキューレのように燐と編隊を組む飛行機にだ。
大人達の「もう、ここも戦場になるのか・・・・」という呟きも聞こえない。
僕の後ろで一緒に走っていた幼馴染もいつの間にか、いなくなっている。
しかし、そんな事よりもその編隊の先頭に堂々と飛び続ける赤い飛行機が、僕の心には余りにも美しく、余りにも格好良く見えた。
突然、僕の世界が百八十度反転し、天地が逆さまにひっくり返ってしまう。
どうやら牧草に引っ掛かって転んでしまったらしい。
すぐに飛び起きてさっきの飛行機達を空に探すが、既にその姿は山の向こうへと消えていってしまった後だった。
荒い息を溜息と一緒に吐き出しながら、僕はもう少しだけ彼らのいなくなった空を見続けていた。
そして、先頭にいた赤い飛行機を駆る人物がマンフレート・フォン・リヒトホーフェン、通称「レッド・バロン」と呼ばれるドイツの英雄だという事を知ったのは、膝を擦りむいてズボンを破いてしまったのを母に叱られながら盗み聞きしたラジオからだった。
それからドイツの英雄は僕の心の中でも英雄になった。
事あるごとに両親に彼の事を毎日のように報じるラジオのニュースを聞かせてくれるようせがみ、時には彼の載っている新聞記事をを切り抜いてコレクションにもした。
ただ、僕の空と彼への憧れは日増しに僕の心を色濃く焦がし、いつか彼と共に蒼穹の空を自由自在に舞う事を夢見て、幼い時間は流れていった。
だがある日、突然として僕の夢に終わりが来た。
夢の終わり。僕の夢が、全てが、音を立てて壊れていった。
ラジオがドイツの英雄、「レッド・バロン」の戦死の報を告げたのだ。
僕はその事を意地悪な兄におもしろ半分に教えられた時、信じる事が出来なかった。
兄は夢見がちな僕にそれ見た事か、という事を言いたかったのかもしれない。
それでも僕は信じられなかった。
「嘘だ!」と何度も連呼し、兄に飛び掛って取っ組み合いの喧嘩になった後、身体中に痣と擦り傷をつけた僕はベッドで泣いていた
喧嘩に負けた事より、傷の痛みより、僕の心の中の英雄がいなくなってしまった事がなによりも悔しかった!。悲しかった!。
彼は空軍のエースであり、英雄であり、そしてなにより飛行機に乗った彼は無敵だったはずだ。
その彼が死んだのだ。
それがショックで布団を被ったまま泣き続けている僕を可哀想だと想ったのか、夜に母が僕の部屋に来て慰めてくれたらしいが
僕には母の言葉は何一つとして耳に届いてはいなかった。
その日の夜、眠る事をはるか遠くに感じ、僕は泣き続けた。
バロンの訃報の七ヶ月後、第一次世界大戦の停戦協定が調印され、一九一八年十一月に停戦発効。
同時にベルサイユ条約が有効になり、ドイツは航空戦力を持つことを禁止された。
僕、フランツ・シャル、八歳の時の出来事だった・・・・・・・・・。


登場人物


Laviの作品です。

蒼穹(そうきゅう)のセイレーンですが、蒼穹ってなんですか?(爆)
俺にはボキャブラリーがないので、わかんないです(泣)